こんにちは、岡畑興産靴受託事業のうえだです。
普段靴を買うときに、見た目の可愛さ・カッコ良さというファッション性というのは、人が欲しいと感じるかという面で、かなりのウエイトを占めていると思います。
ただ、デザインが好みで買ったは良いけど、疲れを感じやすかったり、雨の中で滑ってまともに履けないとなってしまうと、結局使わなくなってタンスの肥やしならぬ靴箱の肥やしになってしまいます。
普段、あまり靴屋で靴底の材質は…なんて気にすることは無いと思いますが、実は長く愛用するために非常に重要な部分なんです。
今回はそんなアウトソールと呼ばれる靴底の種類について、取り上げてみたいと思います。
目次
靴底(ソール)の材料の種類は?特徴や用途を知って選ぼう
靴の「疲れにくい」「雨の環境下でも滑らない」といった機能性は、アウトソールやミッドソールと呼ばれている靴底の材質や形状がどのようになっているかで、大きく変わってきます。
靴底で使用される材質は、その靴がどのような用途で使用されるのかで、かなり絞られてきます。
例えば、結婚式などフォーマルなシーンで履く牛革のカッコ良い革靴なのに、靴底に使用されているのがスニーカーの様な材質ですと、足は疲れないですが完全にその場には合わない靴になってしまいます。
靴底を選ぶ際の参考として、一般的に使用される材料の種類について、それぞれの特徴やメリットデメリットをご紹介していきますね。
■レザーソール(本革)
フォーマルな革靴といえばまずイメージされるのが、牛革を使用した革底ではないでしょうか?
ラバーソールとは違う、底面が平らでツルっとした見た目なのが印象的です。
世界の名だたる紳士靴メーカーの高級と呼ばれるラインナップには、必ずこの本革を使った靴があるのでは、と言われるほど紳士靴の靴底として一般的であり、歴史がある材料となります。
メリット
通気・透湿性と、熱に強いという点がメリットと言えるでしょう。
昔に比べて夏が長くなり、最高気温も年々過去最大を更新し続けている日本では、靴が受ける地面からの熱と、靴内の環境はかなり厳しいものとなってきています。
このような環境下では、コンクリートから受ける反射熱がより強くなります。その点において、レザーソールはラバーソールと比較しても強く溶けにくく、足への熱が伝わりにくいと言われています。
また、革だからこそ持つ通気・透湿性は、足裏から出てくる熱や汗を外に出すことを助け、靴の中の環境を整えるのに役立ちます。
デメリット
デメリットとしては、革ゆえに他の材質の様に凹凸をつけるようなデザインが付けにくく、地面へのグリップ力がかなり低いため、かなり滑りやすくなります。
特に、雨が降って地面が濡れた環境では耐滑性能は低くなります。
また、革は硬く曲がりにくいということもあり、人によっては疲れやすいと感じることもあるかもしれません。
■ラバーソール
工場でラバーを高温で練り込みながら硫黄を加え、靴底の金型に入れてプレスすることで成型するラバーソール。
革靴やランニングシューズのアウトソール(靴底の地面と接地する場所)など、幅広い部分で使用されます。
また、この作り方では厚みや形状など自由に設計できるのも特徴です。
ラバーを機械で練り込む際、添加物を加えることで雨や雪の環境下でも滑らないようにしたり、耐摩耗性を高めて削れにくくするなど、シューズデザイナーの意図に沿って幅広いカスタマイズができることも魅力です。
メリット
ラバーソールの最大の特徴には、全体的に摩耗に対する耐性が高く、長く履いても削れにくいというものがあります。
革靴を履くシーンでは、地面はアスファルトであることが多いと思いますので、レザーソールよりも削れにくく長持ちするラバーソールはとても経済的です。
また、水分にも強いため手入れがしやすく、雨などで地面が濡れている環境下でも比較的強い耐滑性を発揮し、歩きやすく使いやすい靴底と言えます。
革靴だけではなく、スポーツシューズのアウトソール(地面に接地する面)にも使用される場合が多く、ソールの摩耗対策と滑り止めとしてもよく使用されます。
デメリット
ゴムゆえに通気・透湿性がなく、足裏の熱による温度や湿度が外に逃げにくいという事があります。
また、地面からの温度程度で溶けることはありませんが、高温化では柔らかくなる可能性があり、その場合は徐々にソール自体が体重で変形してくる可能性があります。
比較的安価で、黒色であればフォーマルなシーンでも使用できることもあり、ソールとしては使用しやすい材料と考えて良いでしょう。
ラバーソールについては、さらに細かく種類があるので、後ほどご紹介します。
■EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)
EVAと聞くととても難しく、特別な材料なのかと感じてしまいますが、かなり一般的な材料で、スポーツシューズを中心に幅広く使用されているポピュラーな材料です。
スニーカーやスポーツシューズの靴底に使用されている柔らかい材料といえば、これのことかと思う方も多いかと思います。
もしよくわからなければ、皆さんがお持ちのスニーカーのミッドソール(靴底の地面と接地してない場所)を触ってもらえればと思います。
メリット
EVAは原材料と発泡剤を熱して、金型で発泡させることで様々な意匠に成型を行うのですが、とにかく色々な形状に成型することができ、発泡しているため非常に柔らかく弾力があることが特徴です。
そのため、ランニングなどのシチュエーションでも体重をしっかりと受け止めることができ、疲れにくく材料自体も丈夫であることがメリットです。
材料自体が軽いため、一般的なスニーカーからスポーツ用のシューズまで、幅広いシチュエーション・価格帯の靴で使用されています。
デメリット
耐摩耗性が低く非常に削れやすいため、EVA単体で使用されるケースは非常に稀です。
EVAをミッドソールとして使用し、アウトソールに成型した薄いラバーを貼り付けるなど、工夫が必要となります。
また、EVAは空気中の水分を吸収することで分解反応が起こり、緩やかに劣化していきます。
そのため、長らく靴箱に保管していて、久しぶりに出してみたらボロボロで履けなくなった…というケースも見られます。
■TPU(熱可塑性ポリウレタン)/ナイロンアウトソール
TPUとナイロンは、一般的な種類ではありませんが、主にサッカーや野球のスパイクなど靴底が硬い特殊な靴などで使用されます。
一般的にTPUの方が耐摩耗性に優れて削れにくく高価ですので、削れやすいですが安価なナイロンを全体に使い、削れやすい部分にTPUを合わせて使用されるケースが多い材料です。
反対に、ほぼ一般的なスニーカーなどでは使用されない材料でもあります。
メリット
耐摩耗性や衝撃吸収性も高いため、長持ちしやすく足への負担も軽減してくれます。
また軽い素材でもあるのでサッカースパイクやスポーツ用途の靴の軽量化にも最適です。
デメリット
長時間、紫外線にあたってしまうと化学変化が起こり黄変する可能性があります。
また水に弱いという特徴もあるため加水分解にも要注意です。
■カーボンプレート
カーボン自体の剛性や取り扱いの難しさから、一般的な靴では使用されることはほぼありません。
しかし、箱根駅伝などで有名となり、今や多くの長距離ランナーが履いているNIKEの厚底シューズではミッドソールに厚さ数ミリのカーボンプレートが入っています。
このカーボンプレートは、足が地面に着いた際に曲がりますが、元の形に戻ろうとするため、その反発性で足を押し出す効果があります。
ただ、このような高機能性を求められる靴でなければ、ほぼ使用用途は無い材料です。
メリット
軽量かつ反発性があるので長時間走るランナーの足や膝の負担を軽減します。
また反発性があることで少しの力で効率よく足を押し出すため疲労感の減少にも繋がります。
デメリット
加工が容易ではなく、また硬さもあるため製造過程に手間がかかるため高コストな材料になります。
またカーボンプレート入りのシューズの強い反発性に頼りすぎると通常で使用する足の筋肉が使われなくなり、足の筋肉の衰えに繋がりかねないので懸念が必要です。
ラバーソールはさらに細かな種類に分かれている!
先ほどご紹介したラバーソールですが、ゴムの素材、デザインによってそれぞれ呼び方が異なります。
ラバーソールの中でも代表的なソールが「クレープソール」「ラグソール」と「ヴィブラムソール」です。
クレープソール
ラバーソールの中でもラテックス(天然ゴム)を使用した靴底になります。
カジュアルな靴によく使用されており、靴底の表面は波状の模様があります。
メリット
クッション性が高く、柔軟製、反発性も兼ね揃えているので履いていても疲れにくいです。
デメリット
水に濡れている地面ではとても滑りやすくなるため雪、雨の日に履くことはおすすめできません。
天然のゴムを使用しているため高温に弱く、夏など高温になっている地面の上ではぺたぺたとくっつくような感触があります。
ラグソール(ラギットソール)
別名ラギットソールとも呼ばれます。
このラギット“rugged”は、「頑丈な」「でこぼこした」という意味なのですが、その名の通りラグソール(ラギットソール)はタイヤと似たような凹凸があるラバーソールです。
登山や軍事用のソールとして作られていましたが現在はさまざまな種類の靴のソールに用いられています。
メリット
グリップ性能に優れているため滑りにくくなっています。
衝撃吸収力も高く、軽量で丈夫なので日常生活はもちろんアウトドア時にも使用できます。
デメリット
凹凸のあるソールなのでソールの溝に小石が挟まりやすい。
定期的にソールに挟まった小石やゴミの手入れをしないとグリップ性が劣る可能性があります。
ヴィブラムソール
イタリア ミラノ近郊にあるソール専門メーカーのソールをヴィブラム(Vibram)ソールと呼びます。
グリップ力や耐久性に特化した高い機能性をもったソールを持っているため
登山などのアウトドア用はもちろんタウンユースでも重宝されるソールです。
メリット
アウトドア用からタウンユースといったソールの種類が豊富なので
自分の使用用途にあったソールを選ぶことができる。
グリップ力、耐久性に優れているので雨で滑りやすい道や雪道といった過酷な環境でのアウトドアでも難なく使用することができる。
デメリット
ソールのデザインによっては、ソールの凹凸が深く小石やゴミが挟まりやすいため本来の機能性を妨げるため定期的にお手入れが必要です。
また比較的、硬く重量感があるソールもあるため使用用途にあったものを選ばないと
足の負担ばかりが大きくなる可能性があります。しっかりと使用用途と照らし合わせて吟味することが大事です。
詳しくは「ヴィブラム(Vibram) とは?ヴィブラムソールの種類を詳しく紹介!」でもお伝えしています。
靴底(ソール)はこうやって開発される!
さまざまな種類のソールをご紹介してきましたが、ここからはソールの開発についてご紹介していきます。
サッカースパイクを例に、大まかなソール開発の流れをお伝えしましょう。
主な流れは以下のようになります。
1. 樹脂の選定
2. アウトソールの設計
3. サンプル開発・作成・修正(2回ほど繰り返す)
4. 完成
1樹脂の選定
お客様のニーズ、コンセプト(軽量性重視、耐久性重視など)に合うよう使用する樹脂の選定から行います。
ひとえにサッカースパイクといっても、高機能性を求めるかファッション性を求めるかで使用する樹脂は異なるのです。
お客様の求めるサッカースパイクの実現のために、コンセプトや希望価格帯に適した樹脂の選定を行います。
2アウトソールの設計
サッカースパイクのアウトソールの設計では、プレイするグラウンドによってアウトソールの形状や特徴が異なります。
想定する使用環境に合ったアウトソールの開発を進め、アウトソールの設計図を起こした後は、「図面を見つつ危険な箇所がないか」「どの箇所にどれだけ重量がかかるのか」という想定を行いつつ次のステップへ進みます。
3サンプル開発・作成・修正
樹脂の選定、アウトソールの設計が完成すると、次は実際に形にするステップです。
サンプルを作成し、お客様へ確認いただきます。
設計図との相違や改善点など、量産へ移る前に不具合がないか入念にチェックします。
アウトソールと合わせ、サッカースパイクの状態にしたサンプルを試履きしてもらい、改善点があればそれを踏まえて修正点を盛り込んだ2ndサンプルを作成。
再度確認してもらう、といったことを繰り返します。
4完成
サンプルの作成と修正を繰り返し、お客様側でOKをいただければ、アウトソールは完成です!
量産に向けてアウトソールの生産を進め、サッカースパイクとして出荷されます。
0から作り上げるため時間もコストもかかってしまいますが、一歩間違えれば事故につながりかねないので、慎重にお客様と打ち合わせを重ね、製品のクオリティを確立していきます。
そして量産段階へと移っていき、生産・出荷・納品と進めていきます。
靴底のソールは種類によって特徴が違う!開発過程もチェック
靴を選ぶ際に、あまり意識することが多くない靴底のソールの種類。
実はいくつもの種類があり、それぞれにメリット・デメリットが。
お気に入りの靴をより長く愛用するために、靴底のソールも気にしてみると良いですね!
靴底の材料を確認し、その機能性とメリットデメリットを認識することで、どのような個性を持った靴なのかを知ることができるかと思います。
またアウトソールの開発では使用材料の選定から、想定される使用環境によってアウトソールのデザインを変えたりとブランド側のこだわりが詰まっています。
ファッション性も重要ですが、アウトソールにも注目して自分の求めている靴を探してもらえればと思います。
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