今日は岡畑興産のこじろうです。
靴の製法にはいくつかありますが、もっとも一般的な製法が「セメント製法」です。
簡単に言うとアッパーとソールを接着剤でくっつける製法なのですが、詳しい製造工程も気になるところですよね。
今回はセメント製法の詳細やメリット・デメリット、その他の製法との違いについてご紹介します。
セメント製法の靴とは?
靴のアッパーとソールの接合方法のことを「靴の製法」と言いますが、その中で現在最も生産量が多いのがセメント製法の靴です。
セメントには “固める” “接合” “統合”という意味があり、その言葉の通りアッパーとソールを接着剤でくっつける製法がセメント製法です。
セメント製法の靴は、第二次世界大戦後合成接着剤が発展した後、日本では1952年(昭和27年)頃に婦人靴から始まりました。
昭和から始まった製法ですが、長い靴の文化から考えると新しい靴の製法と言えるでしょう。
セメント製法の靴の製造工程
- ラストに入れた縫製アッパーの底面とソール側の底面を軽く削る
※接着面を削り、荒らすことで接着強度を上げます - アッパー底面とソール接着部にプライマーを塗布する
※接着剤の効きを良くします - アッパー底面とソール接着部に接着剤を塗布する
- アッパーとソールを過熱機に入れて乾かす
※加熱することで接着剤材の分子が活性化し接着強度が上がります - 3と4をもう1度繰り返す
- 靴底専用圧着台でプレスする
※ソールの形状によって、側面専用圧着機や全方向圧着機などを使うこともあります
セメント製法の靴のメリット・デメリットは?
セメント製法で作った靴にはどのような特徴があるかも気になりますよね。
この製法ならではのメリット・デメリットもご紹介します。
メリット
・他の製法と比較して工程が少ないため、製造コストが抑えられる
・防水靴ほどではないが、他の靴製法に比べて構造的に水が入りにくい
デメリット
・ソールの貼り替え修理が難しく、基本的に履きつぶしが前提である
セメント製法以外の代表的な製法も解説!
セメント製法以外にも代表的な靴の製法として「グッドイヤー・ウェルト製法」「マッケイ製法」があります。
それぞれの製造工程や靴の特徴をご説明していきますね。
グッドイヤーウエルト製法
元はハンドソーンウエルテッド製法(手作業で制作する)が発展して機械化製造法になったものが、グッドイヤーウエルト製法です。
グッドイヤーウエルト製法の「グットイヤー」は、ハンドソーンウエルテッド製法を機械化し特許を取ったチャールズ・グットイヤー2世の名前から由来しており、「ウエルト」には細革という意味があります。
中底とアッパー、ウエルト(コバ)の3つを掬い縫いで縫い付け、ウエルトにソールを出し縫いで取り付ける製法です。
最近では機械化もされていますが、製造工程が多く複雑で各工程では熟練の技術が必要。
どっしりとした丈夫な靴になり、修理が容易にできるため実用性のある靴といえるでしょう。
マッケイ製法
イタリアのマルケ地方が発祥で、1858年アメリカ・マサチューセッツ州のライアン・ブレイクさんがマッケイ製法用の機械を開発したことで広まったのが、マッケイ製法です。
その後ゴードン・マッケイさんが機械の権利を買い取り、改良を加えてマッケイ製法を作り上げました。
ゴードンさんのファミリーネームから、マッケイ製法と名付けられています。
ラスティングしたアッパーとソールを縫い止めるマッケイ製法は、ウエルテッド製法と比較して製造工程が少なく、出来上がった靴の屈曲が良いのが特徴です。
欠点としてはアッパーからソールまで貫通して縫い止めるため、底面の縫い穴から水が浸入しやすく雨に弱い靴といえます。
※マッケイ製法のアレンジ版として、マッケイ縫いをした後に底材を接着で貼るマッケイセメント製法があります。
セメント製法・グッドイヤーウエルト製法・マッケイ製法の比較
この3つの製法の見分け方ですが、まずアッパーとソールを接合するステッチがなければ「セメント製法」です。
ソール底のステッチが内側にあるのが「マッケイ製法」、ソールの端にステッチを掛けているのが「グッドイヤーウエルト製法」と見分けると良いでしょう。
また、靴の中を見て中底に縫い糸があるとマッケイ製法と確認でき、ウエルトの有り無しでグッドイヤーウェルト製法かどうか判断することができます。
さらに靴のシルエットとして、グッドイヤーウェルト製法の靴はアッパーとソールの境に丸みがあるのが特徴です。
なかにはセメント製法の靴でも、外観だけをウエルト風に模した「イミテーションウエルト」の靴もあります。
ソール交換の違い
ソール交換についても、それぞれ違いがあります。
セメント製法
接着剤で接合しているので、交換のためにソールを剥がすときにアッパーが壊れやすく、基本的にソール交換はできません。
ただし、ヒール部分の交換ができる場合はありますので、メーカーや修理専門店に相談してみましょう。
グットイヤーウエルト製法
ソール全体、ヒール部分ともに修理が可能です。
ヒールを外して底付けしてある釘を抜き、ステッチを全て切ってソール全体を剥がすことができます。
専門の工具が必要ですので、メーカーや修理専門店に依頼してください。
マッケイ製法
グッドイヤーウェルト製法と同様に修理が可能です。
3つの製法を選ぶポイントは?
靴の目的や重視する点によって、3つの製法の中でどれを選ぶかが違ってきます。
リーズナブルな価格で入手したいなら、セメント製法の靴がおすすめです。
近年では安価ながら長持ちする靴も増えています。
また、セメント製法の靴には多様なアッパー材料・ソール材料を用いたバリエーションがあり、デザイン面での制約が少なくオシャレな靴が多いのも魅力です。
グッドイヤーウエルト製法の靴は比較的値段の高い靴が多いのですが、ソール交換ができるので大事に履けば長く履くことができ、コストパフォーマンスが良いと言えますね。
履き始めは堅牢で硬めなのですが、履き込むことでソールとアッパーの間に入っているコルクが足になじんで歩きやすくなるという特徴もあります。
マッケイ製法の靴は細身のシルエットと屈曲、返りが良く疲れにくいのが特徴です。
シュッとしたドレスシューズが欲しいときにマッケイ靴を探してみてはいかがでしょうか?
セメント製法の靴はコスパ◎目的に合わせて製法を選ぼう
セメント製法とは、アッパーとソールを接着剤でくっつける製法のこと。
セメント製法の靴は、基本的にソール交換ができないことが多いですが、製造コストが抑えられるためリーズナブルであったり、バリエーションが豊富という魅力があります。
また、他の靴製法に比べて構造的に水が入りにくいのもメリットの1つです。
ほかにも代表的な製法には、ソール底のステッチが内側にある「マッケイ製法」や、ソールの端にステッチを掛けている「グッドイヤーウエルト製法」などがあり、それぞれに良さがあるので目的に合わせて選んでみてくださいね!
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※岡畑興産株式会社は、化学品事業と靴受託事業が連携し、SDGsに貢献できる材料開発・用途開発を進めています。