こんにちは、岡畑興産の木下です。
近年、各業界で環境問題への関心が高まる中、プラスチック廃棄物による環境問題は深刻な課題となっています。特に、生分解性プラスチックは自然環境で分解される特性を持つことから、持続可能な社会を目指す上での重要な解決策として注目されています。
今回は、この生分解性プラスチックについてのお話です。
生分解性プラスチックの定義から、種類や用途、さらにメリット・デメリットや課題点まで詳しく解説します。
目次
生分解性プラスチックとは?
近年、不適切な処理により年間数百万トンものプラスチックが陸から海に流出しており、海洋プラスチックごみによる汚染が世界的な問題となっています。
プラスチックは原則自然に分解されることがないので、一度自然界に流出してしまった場合、分解されることなくほぼ永久的に残り続けてしまうのです。
そのような分解できないプラスチックの代替素材として、「生分解性プラスチック」が登場しました。
生分解とは、バクテリアや菌類などの微生物によって、有機化合物が分子レベルまで分解されること。
「生分解性プラスチック」は、プラスチックと同じ性状や機能を持ちながらも、使用後は微生物などの働きによって生分解され、二酸化炭素や水、あるいは土壌の栄養分として自然に還る特性を持ちます。
この特性により、環境中に廃棄された際のごみ問題や、海洋汚染の削減が期待されています。
「生分解性プラスチック」の生分解度は、定められた基準と、国際的に規定された試験方法をクリアした上で判断され、さらに分解過程(分解中間物)・重金属等の含有物の安全性の基準をクリアすると、生分解性プラマークをつけることが認められます。
※出展元:日本バイオプラスチック協会
バイオマスプラスチックとの違い
「バイオマスプラスチック」は植物などの再生可能な原料を使用して作られたプラスチックで、必ずしも生分解性を持つわけではありません。
一方、生分解性プラスチックは、石油由来の原料でも微生物による分解が可能なものを指します。このように「原料の由来」と「分解性」が両者の主な違いです。
生分解性プラスチックが注目される背景
現在、海洋に漂流するプラスチックごみが、海洋生物や生態系に与える悪影響が世界中で問題視されています。
限られた資源を効率的に使い、リサイクルを促進することが求められていることから、注目を集めています。
靴業界においても廃棄された靴が埋立処理されることが多くあり、その結果、土壌に分解されずに長期間残留し、環境被害につながるケースも指摘されていますが、近年こうした課題を解決する生分解性プラスチックに期待がかけられています。
生分解性プラスチックのメリット・デメリット
生分解性プラスチックのメリット
① 環境負荷の低減
自然界で分解されるため、廃棄物の蓄積を減らせます。
② 持続可能な資源利用
一部の生分解性プラスチックはバイオマス由来で、限りある石油資源の消費を抑制します。
③ 海洋環境の保護
生分解性プラスチックを使用することで、海洋汚染の防止に貢献します。
生分解性プラスチックのデメリット
① 特定の条件下でのみ分解
自然環境の全てで同じ速度で分解するわけではありません。
② コストが高い
従来のプラスチックに比べ、生産コストが高くなる傾向があります。
③ 廃棄インフラの不足
適切な回収・処理体制が整備されていない地域では十分な効果を発揮しません。
生分解性プラスチックの種類と用途もご紹介
生分解性プラスチックの種類
1. PLA(ポリ乳酸)
植物由来の原料(トウモロコシやサトウキビ)を使用。
主にフィルム、食品包装、3Dプリンター素材などに使用。
2. PBS(ポリブチレンサクシネート)
柔軟性と耐久性に優れ、用途が広い。
ごみ袋や農業用フィルムに使用されます。
3. PVA(ポリビニルアルコール)
水溶性で、洗剤カプセルや特殊用途に活用されています。
4. 石油由来の生分解性プラスチック
PBAT(ポリブチレンアジペートコハク酸):柔軟性が高く、農業用フィルムや包装材に利用されます。
生分解性プラスチックの用途
・食品包装材:PLAやPBSを活用した生分解性ラップや容器。
・農業用フィルム:そのまま土壌で分解されるマルチフィルム。
・日用品:歯ブラシ、レジ袋、靴など幅広い分野で採用されています。
生分解性プラスチックを用いた靴については、以下のブログでもご紹介しています。
また、岡畑興産ではさまざまな生分解性樹脂について用途開発を進めており、生分解性樹脂を生活のどこに使うことができるのか、普通のプラスチックからの置き換えについてアイデアを提案しています。
こちらのブログもチェックしてみてくださいね!
生分解性プラスチックの課題点とは?
たくさんのメリットがある一方で、生分解性プラスチックは、特定の条件(温度・湿度・微生物の存在など)のもとで分解されるため、使用後の廃棄方法や環境に依存する部分があるなど、課題点もあります。
主に以下の3つについては、今後も考える必要があります。
生分解性プラスチックとは環境に優しい素材!今後の改良に期待
生分解性プラスチックは、環境負荷の軽減に貢献する可能性を持つ素材です。
特に海洋汚染や資源循環の観点から、持続可能な社会に向けた重要な役割を果たします。
しかし、課題であるコストや廃棄インフラの整備が求められるため、今後の技術開発や政策支援による改良が期待されます。
① 分解条件での依存
一部の製品では自然環境下での分解速度が遅く、期待通りの効果が得られない場合があります。
② 廃棄インフラの整備が必要
適切な処理を行うためのインフラが整っていない地域が多いのが現状です。これが原因で効果的に分解されない場合もあります。
③ コストが高い
包装材によく使われるポリエチレンやポリプロピレンは、大量生産が可能なため安価です。
一方、 生分解性プラスチックは、現在の科学技術では安価に大量に生産することができず、非常にコストが高いです。
そのため、生分解性プラスチックの価格競争力が低く、普及が進みにくい分野も存在します。
④ 既存樹脂に比べ物性が劣ることが多い
現在、外観、成形性、衝撃性など、既存樹脂と比べると各種性能で劣るものも多く、コストと相まって、既存のプラスチックからの切替が積極的に進められていません。
一例として、弊社の化学品事業部ではPHAを取り扱っていますが、このPHAは非晶質であり、かつ非常に柔らかいために単独での成型が難しく、PLAと配合することで成型性を持たせています。
今後は、コストを下げつつ、物性の改良も大きな課題です。
生分解性プラスチックは環境に優しい素材!今後の改良に期待
生分解性プラスチックは、環境負荷の軽減に貢献する可能性を持つ素材です。
特に海洋汚染や資源循環の観点から、持続可能な社会に向けた重要な役割を果たします。
しかし、課題であるコストや廃棄インフラの整備が求められるため、今後の技術開発や政策支援による改良が期待されます。
今後ますます目を離せない素材になること間違いなしでしょう。
岡畑興産では、真面目に靴を作っている会社のブログ「くつナビ」を運営しています。
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