2022.11.21
パーム油の問題とは?環境・社会への影響や取り組める対策をご紹介
こんにちは、岡畑興産の山口です。
「パーム油」と記載されているものを目にすることは少ないですが、身近なものに広く使われているのをご存知でしょうか。
実は、スナック菓子やマーガリン、アイスなど、普段口にする食品や石鹸や洗剤など、幅広く使われているんです。
今回は「そもそもパーム油って何なの?」といったことから、パーム油の抱える問題まで解説していきます。
パーム油とはどんなもの?
パーム油とは熱帯植物であるアブラヤシの果実からとれる油のことです。
また、その果実の種からはパーム核油を得ることもできます。
今では、植物油脂のなかでパーム油の生産が世界一多くなっており、その主な生産国はマレーシア、インドネシアです。
【2019/2020 世界の植物油生産量】
1位:パーム油 73,918千トン
2位:大豆油 58,558千トン
3位:菜種油 24,940千トン
(参考:一般社団法人 日本植物油協会)
この2カ国はパーム油関連産業が主要産業の一つとなっており、国内需要を大きく上回る生産量を誇っています。
そのため多くが輸出されており、マレーシアでは生産量の89%、人口が多く国内での消費が多いインドネシアでも生産量の65%を輸出に向けています。
食物油脂においてパーム油の生産量が世界一である背景としては、パームが常緑樹であり、一年間を通して果実の収穫が可能なことが挙げられます。
そのため、1年1作の油糧種子と異なり、生産面積当たりの油の生産量が高いという特徴があります。
油糧種子の中で油分が相対的に高い菜種でも、収穫面積1haあたりの菜種油の生産量は800キロにすぎませんが、パーム油生産量は3.7トンと菜種油の約4.6倍です。
これほど多く生産され、加工食品などに利用されているパーム油ですが、日常生活においては「パーム油」という言葉を聞く機会はあまりないと思います。
なぜなら、日本の食品表示法ではパーム油は「植物油脂」と表示されるだけで、何の植物の油が使用されているかまでは記載されないからです。
日本においても、植物油脂の消費量の順は菜種油、パーム油と需要は高い傾向にあります。
普段意識していないだけで実は身の回りにあふれている、それがパーム油なのです。
パーム油が与える環境への問題とは
普段の生活で日常的に使っているパーム油。
使うこと、使わないことで環境に対してどのような影響を与えるかご存知でしょうか。
パーム油に関係した代表的な環境問題では、以下のようなものが挙げられます。
①熱帯林の減少・土壌汚染
パーム油の原材料アブラヤシは、収穫後24時間以内の搾油が必要です。
そのため、農地に搾油工場を併設することが最も効率的であり、農地面積が数千~数万haにも及ぶ大規模なものになるという特徴があります。
このアブラヤシのプランテーションでは、農地開発に伴う森林破壊が問題となっています。
WWFジャパンのRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証についてによると、
インドネシアのスマトラ島では1985年には2,490万ヘクタールあった熱帯林の面積が、2016年には1,110万ヘクタールと、およそ30年で半分以下にまで減少しています。
また、熱帯林の伐採で土壌侵食が進み、農園で使用する有害性の強い農薬や化学肥料による土壌汚染も、大きな問題のひとつです。
②生物多様性の消失
アブラヤシのプランテーションでは①で述べたように熱帯林を破壊してしまいますので、その土地にもともとあった植生をも消滅させてしまいます。
また、野生動物の住処や餌も奪ってしまうため、生物の多様性を破壊して消失させてしまう問題があります。
③気候変動
アブラヤシの栽培が盛んなインドネシアには、スマトラ島、カリマンタン島、パプア島を中心に泥炭地が広がっています。
泥炭地とは、枯れた植物が土壌微生物による分解を受けずに有機物の塊として堆積した土地のこと。
東南アジアの熱帯泥炭地には少なくとも42,000メガトンもの、年間総排出量の2倍に及ぶ土壌炭素を蓄積しているそうです。
泥炭地でアブラヤシ農園の開発が進むなかで排水が行われ、泥炭の酸化分解が促進されるとともに、泥炭火災のリスクが高まり、泥炭から大量の二酸化炭素が排出されます。
北海道大学が2004年~2008年の間にインドネシアの泥炭地で行った研究によると、泥炭林の攪乱が進むほどに泥炭地からのCO2排出量は増加し、未排水の泥炭林と比較して排水された火災跡地ではCO2排出量が2.5倍以上と大きく増加していることがわかっています。
また、パーム油1トン当たりの温室効果ガス排出量は石炭以上ともいわれています。
そのため、温室効果ガスの発生源となる可能性があり、地球温暖化の問題へと繋がっているのです。
パーム油に関する社会面の問題・動向とは
パーム油の生産によって、環境面では先に述べたような問題が挙げられますが、社会面での問題にはどのようなものがあるのでしょうか。
①労働問題
大規模なアブラヤシの農園では、移住労働者や日雇い労働者といった安価な労働力によって支えられています。
斡旋システムで労働者に多額の借金を負わせたり、強制労働が横行している場合もあります。
また、アブラヤシ農園を運営する企業に雇われて働く人々は、収穫量が目標量に達していないと減給されたり支払われない場合もあるため、収穫量を確保するために子どもも一緒に働く児童労働も問題になっています。
②インドネシアの輸出禁止(※現在は解除)
現在は解除されていますが、インドネシアでは2022年4月28日から同年5月23日までパーム油の輸出制限を行っていました。
輸出制限が行われた背景としてはロシア・ウクライナ問題を契機とするパーム油の世界的な高騰が起こったことが挙げられます。
このときにインドネシア国内での安定供給を目指し、パーム油の輸出が禁止されましたが、国内外からの反発が強く長くは続きませんでした。
また、一国の大統領の政策でサプライチェーンが混乱するのを避けるために、輸出国が限られた粗パーム油に依存するのを避けようという見方も広がりました。
現在では、ヨーロッパや中国、インドでは代替品としてひまわり油の生産量を増やそうとする動きが出てきています。
パーム油問題への対策もチェック
これまでパーム油を取り巻く環境・社会面での問題を見てきましたが、パーム油を使用しなければ、こうした問題は解決されるのでしょうか。
パーム油は現時点で最も生産性の高い植物油脂であり、他の食物からパーム油に匹敵する量の油を得ようとすると、より広大な農地が必要です。
そのため、さらなる森林の破壊につながる可能性があります。
また、パーム油の代替として他の植物を利用しようとすると、単位面積あたりに得られる量が少なくなるので、労働問題が深刻化することも考えられます。
そこで、パーム油を使わないのではなく、「持続可能なパーム油」の生産と利用を行っていくことがパーム油問題の解決につながると考えられており、2004年にはRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)という国際組織が設立しました。
この組織は市場での持続可能なパームのサプライチェーン全体にわたり、信頼される国際基準の策定、実施、検証、保証や見直しなどを使命として掲げています。
こうした認証を受けたパーム油を使うことが、パーム油問題を解決する対策につながっていきます。
パーム油問題を理解して環境改善へ
パーム油とは、熱帯植物であるアブラヤシの果実からとれる油のことで、世界で生産が1番多い植物油脂です。
日本では「パーム油」という表記を目にすることが少ないことから、パーム油を取り巻く問題を意識することは少ないと思います。
しかし、日本でも植物油脂の消費量はパーム油が2番目と需要は高いです。
現在、パーム油を生産するアブラヤシ農園の開発に伴い、森林破壊や生物の多様性の破壊、温室効果ガス排出による温暖化促進などが問題視されています。
パーム油問題を解決する対策は世界的にも取り組まれていますが、私たち一人一人もRSPO認証を意識し、認証を受けたパーム油を使うなど、環境・社会面での解決を意識していきたいですね。
岡畑興産は、東アジアを中心とした化学品専門商社です。
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●参考
1)パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの |WWFジャパン
2)パーム油の問題点 | パーム油調達ガイド (palmoilguide.info)
3)文章で知る | あぶない油の話〜パーム油のことを知るサイト〜 (plantation-watch.org)
4)共同発表:熱帯泥炭地のCO2排出量を世界で初めて測定 排出抑制に科学的根拠、国際的な制度化にも貢献 (jst.go.jp)
5)最新ニュース | パームエナジーニュース (indonesia-palm.com)
6)植物油の道|一般社団法人 日本植物油協会 (oil.or.jp)