2024.01.13
欧州で新車・自動車へのリサイクルプラスチック使用が義務化!影響は?
こんにちは、岡畑興産の萩田です。
2023年7月13日、欧州委員会が循環性の高い自動車設計、生産、廃車に向けた規則案を発表しました。
裾野が広い自動車産業の動向は我々化学品専門商社にとっても気になるところです。
今回は、発表された欧州の自動車設計・廃車管理の規則案の概要と、日本への影響について考察していきたいと思います。
特に当社が注目しているリサイクルプラスチックへの影響についてもお伝えしていきますので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
目次
欧州が発表した自動車設計・廃車管理の新規則案とは?
欧州委員会は2023年7月13日、自動車の車両設計から生産、廃車までの課程における循環性向上に向けた自動車設計・廃車(End of Life Vehicles : ELV)管理における持続可能精要件に関する規則案を発表。
現在の法令の下でも廃車からの廃材料のリサイクル率は85%まで高まりましたが、欧州委員会からは、以下の点が課題として挙げられました。
- 廃車から出る金属廃棄物は十分な分別・価値化がされていない
- 適切な廃車回収が行われておらず、環境汚染源となる廃車がEU域外へ多く輸出されている
- プラスチックや電子部品、複合材料のリサイクル率が非常に低い
そのため、以下を重視した規則案に改正されたのです。
- 廃車由来の再生材を増産する
- 廃車回収率を上げる
- 事業者間の廃車に係る公正なコスト負担配分を行う
- 部品の再利用や回収を促進する車両を設計する
- 新車生産ではプラスチックの25%以上の再生プラスチックを利用する
※そのうち廃車25%は廃車部品からリサイクル
2035年にかけて段階的に導入を進めており、「1年当たり1,230万tのCO2の排出削減や540万tの原材料の価値化を実現するほか、重要原材料の再利用の増加と域外への依存の低減、エネルギー節約といった環境・経済面での効果も期待できる」と発表しています。
この新規法案は日本にどのような影響を与えるのか、次でお伝えしていきましょう。
欧州の自動車設計・廃車管理の新規則案は日本にどう影響する?
日本の自動車リサイクル法は、廃棄物の再資源化・適正処理、特にシュレッダーダストの不法投棄防止に重点を置いています。
しかし、欧州の自動車リサイクル制度は、自動車という製品全体の持続可能性と再生資源の活用を重視する方向にあります。
廃車からの金属回収等に留まらず、新車における部品の再利用、再生プラスチック利用、廃車由来の再生材増加、廃車回収率増加、コスト負担の公正化なども重視しているのです。
途上国への輸出についても、欧州では海外での環境汚染に繋がるリスクを考えています。
また、3Rという概念にも違いが生じています。
日本での3Rは、廃棄物処理における「Reduce・Reuse・Recycle」とされており、なるべくゴミを出さない・減らす、再使用する、資源化して再利用することを重視していますよね。
一方で欧州の3Rは「新しい製品の設計製造段階でのReusability(再利用性)・Recyclability(リサイクル性)・Recoverability(回復性)」と定義されています。
このように、日本のリサイクル法よりも積極的に再生プラスチック利用の義務化を掲げる欧州が考案した新規則案は、日本の自動車産業だけでなく、リサイクル業界にも大きな影響を与えていくと予想しています。
また、規制が有効化された場合、日本では車1台に対して約200kgのプラスチックが使われているとされているため、大量のリサイクル材で部品を製造しないと欧州へ輸出できなくなってしまうのも、大きな影響です。
ただし全体で見ると、リサイクルプラスチックの価格が需要増に伴って上昇することで、プラスチックのリサイクル技術への投資が拡大し、経済に良い効果があることも期待できるでしょう。
欧州の自動車設計・廃車管理の新規則案でリサイクルプラスチックはどうなる?
お伝えしたように新車の製造には、多くのプラスチックを使用しています。
自動車用プラスチックで最も量が多いのはポリプロピレン(PP)です。
バンパーやフェンダーなどの外装パーツやトランクルームなどに使われています。
そのほか、ポリエチレン(PE)やアクリル樹脂(PMMA)なども多く使用されています。
リサイクルプラスチックの新車への採用において大きな鍵になるのが新規則案です。
同規則案では、新車生産に必要なプラスチックの25%以上をリサイクルプラスチックにし、そのうち廃車由来は25%と定めています。
日本自動車リサイクル機構代表理事の酒井康雄氏は「リサイクルプラスチック使用の義務化は、環境配慮の観点から今後避けられないだろう」と話しています。
さらに、「昔から自動車メーカーはプラスチックのリサイクルを想定していた」とも語っており、国内の自動車メーカーを中心に、約20年前から200gよりも重い部品の裏側に材料の種類を明記してきたと伝えています。
材料の明記は、リサイクルをする際に材料ごとで部品を分別する時に役立ちます。
自動車メーカーが材料を明記してきたおかげで、現在、日本国内に存在する車の多くが“リサイクルしやすいつくり”となっているのです。
使用済みの車からプラスチックの回収が加速すれば、自動車メーカーの約20年の“努力”も報われそうです。
ただし、リサイクルプラスチックを積極的に使用することには課題点もあります。
リサイクルプラスチックを活用する課題点と対策
新規則案を進めるにあたり、リサイクルプラスチックは欧州向け自動車部材用で最も多く使われているPPを中心に検討が進められています。
これまでリサイクルプラスチックの多くは、その製造工程から出てくる端材の活用が主でしたが、より積極的なリサイクルを検討するには市場回収したプラスチックの活用が必須となります。
しかし、市場回収したプラスチックの活用には、いくつかの問題があります。
①ニオイ問題
市場回収したプラスチックには汚れやニオイが付着しています。
汚れに関しては洗浄工程である程度除去できますが、ニオイについては、ことのほか難しい課題のようです。
この課題に対し、化学的に消臭するアプローチとして東亞合成株式会社の「ケスモン」という商品があります。
ケスモンは無機系の化学吸着型消臭剤であり、さまざまな悪臭やVOC(揮発性有機化合物)に対して優れた吸着・消臭効果を示します。
即効性に優れており、耐熱性や耐久性のある材料のため、樹脂成形品にも使用可能です。
また、調合香料をベースにした花王の消臭技術にも注目です。
リセッシュなどの家庭用品にとどまらず、産業分野における悪臭対策にも花王の消臭技術が応用されています。
以下のブログでも詳しくお伝えしているので、ぜひ参考にしてくださいね。
ゴム製品の悪臭低減プロジェクト中間報告〜マスキング香料の新用途「練り消しモデル」とは〜
②強度問題
市場回収した樹脂は使用環境によって劣化が進んでいるものも多くあります。
このような粗悪な樹脂でもアップリサイクルを可能にする添加剤が開発されています。
ADEKAのアデカシクロエイドUPRシリーズです。
この画期的な添加剤は酸化防止剤や核剤が配合されており、添加することで熱安定性が向上し、バージンPPを上回る剛性を付与することができます。
これら2つの問題のほか、リサイクル材で高い品質を保ったまま製造できるかというと、難しい部分ではあるため、その点での課題はまだ残っているといえるでしょう。
ただし、自動車メーカーのAudiではリサイクルガラスを最大30%含有したフロントウインドーを搭載する自動車が登場するなど、リサイクルプラスチックを多く活用した高品質な車も開発が進んでいます。
今後の発展に期待したいところです。
欧州の自動車設計・廃車管理の新規則案は良い方向に進んでいる!
欧州委員会が循環性の高い自動車設計、生産、廃車に向けた規則案を発表したことにより、日本の自動車産業にも少なからず影響が出てきています。
特に、新車生産でプラスチックの25%以上をリサイクルプラスチックにすることが含まれていますので、リサイクルプラスチック業界はその対応を迫られることになりそうです。
リサイクルプラスチックを活用するに当たっても、ニオイ問題や強度問題、品質の保ち方が課題として挙げられます。
この課題を解決するためには化学の力が不可欠といえるでしょう。
課題点を解決していければ、CO2の排出削減や重要原材料の再利用の増加と、エネルギー節約といった環境・経済面での効果も期待できます。
岡畑興産では、化学品専門商社として今後も変化や動向を追うと共に、ケスモンや消臭香料、樹脂添加剤など、優れた製品をリサイクルプラスチックの業界の皆様へお届けしたいと思っています!
また、岡畑興産が運営している常設オンライン展示会「どこ展-どこでも、ひとり展示会」や「岡畑興産ブログ」でも、さまざまな機能性原料・化粧品原料を詳しく展示していますので、そちらもぜひチェックしてみてくださいね。