2026.06.26
悪臭対策の「最後の壁」を、サイエンスで突破する|花王ハーモセント技術

こんにちは、岡畑興産 機能化学品事業部の萩田です。
工場の生産現場、製品そのもの、そしてリサイクルの工程。どんなに対策を重ねても、最後まで取りきれずに残ってしまう悪臭に、頭を悩ませていませんか。
臭いは目に見えず、感じ方も人それぞれです。だからこそ、つい「これくらいは仕方がない」と受け入れてしまいがちです。けれども、製品にこもる臭いは返品やクレーム、ブランドイメージの低下に直結し、現場に漂う臭いは働く人の環境を確実に損ないます。
私たち岡畑興産は化学品の専門商社として、さまざまな業界の悪臭のご相談に向き合ってきました。そのなかで実感しているのが、多くの現場が「あと一歩のところで越えられない、最後の壁」とでも言うべき悪臭課題を抱えているということです。
本記事では、なぜ悪臭は厄介なのかという科学的な背景からひもとき、従来の対策とは発想の異なる「ハーモセント技術」をご紹介します。そして、オートケミカル・ゴム製品・樹脂リサイクルという3つの現場で、その技術がどう活かされたのかを、私たちの関わり方とともにお伝えします。
目次
あらゆる現場に残る「悪臭という最後の壁」
臭気の問題が後回しにされやすいのは、それが「見えない厄介者」だからです。臭いは数値で示しにくく、感じ方にも個人差があります。近隣からの苦情という形で顕在化すれば誰もが動きますが、そうなる前の段階では「生産現場なのだから多少は仕方がない」と見過ごされがちです。
ひと口に悪臭といっても、その正体はさまざまです。代表的なものを整理してみましょう。
| 悪臭の種類 | 臭いの特徴 | 発生しやすい現場 |
|---|---|---|
| アンモニア | し尿のような臭い | 畜産・化学工場・下水処理 |
| 硫黄化合物(メチルメルカプタン等) | 腐ったタマネギや卵のような臭い | パルプ工場・化学工場 |
| アミン(トリメチルアミン等) | 腐った魚のような臭い | 畜産・水産加工・化学工場 |
| アルデヒド(アセトアルデヒド等) | 刺激的で青くさい臭い | 化学工場・タバコ製造 |
| 有機溶剤 | シンナーやガソリンのような臭い | 塗装・印刷・化学工場 |
これらはごく少量でも強烈に香るものが多く、密閉して扱っても、わずかに漏れ出る臭いを完全に封じ込めることは難しいのが実情です。
そして悪臭を放置するリスクは、決して小さくありません。製品にこもる臭いは購入者の不満や返品の原因になり、生産現場に漂う臭いは従業員の負担となります。さらにリサイクルの分野では、「技術的にはできるのに、臭いがネックで進められない」という、もう一段やっかいな壁が立ちはだかります。
業界も発生源も異なるのに、行き着く先はいつも同じ「最後まで取りきれない悪臭」。この共通の壁を、どう越えるか。それが本記事のテーマです。
これまでの臭気対策と、なぜ「最後の壁」が残るのか
臭気対策には、大きく分けて4つのアプローチがあるとされています。それぞれに役割がある一方で、限界もあります。
| 対策 | 仕組み | 代表例 | 限界 |
|---|---|---|---|
| 薄める | 換気・排出で濃度を下げる | 換気扇・煙突 | 臭いそのものは無くならない |
| 物理吸着 | 原因物質を吸着して取り除く | 活性炭・スクラバー | 吸着材の交換・コストが続く |
| 化学変化 | 燃焼・中和・別の香りで覆う | 燃焼装置・薬剤噴霧・マスキング | 覆い隠す方法は持続しにくい |
| 分解 | 微生物・オゾン・触媒で分解する | 生物脱臭・オゾン酸化 | 設備・運用の負担が大きい |
多くの現場では、これらを組み合わせて環境の改善に取り組んでいます。ただ、いずれも「空間に漂う臭気」を対象とした考え方が中心です。設備や時間、費用もかかり、対策の検討から導入まで1年から1年半ほどを要することもあるとされています。
一方で、本記事が扱うのは、もう少し手前にある課題です。製品そのものに練り込まれた臭い、素材そのものから立ちのぼる臭い。空間をいくら処理しても、素材が臭い続ける限り解決しない種類の悪臭です。ここに、従来の発想とは異なるアプローチが求められます。そのヒントは、「悪臭とは何か」という科学に立ち返ったところにあります。
そもそも「無臭」は存在しない

悪臭対策のご相談で多いのが「無臭にしてほしい」というご要望です。気持ちはよくわかりますが、実はこれは技術的に現実的ではありません。
そもそも私たちが「嫌な臭い」と感じるのは、人類が生き延びるうえで「避けたほうがよい」「体に取り込まないほうがよい」と認知してきた臭いだからだと言われています。腐敗臭や硫黄化合物の臭いを不快に感じるのは、いわば本能に近い反応です。
💡 「無臭」は存在しない
糞便のような臭いの正体「インドール」は、良い香りの代表格であるジャスミンの香りにも含まれています。濃度を薄めていくと、華やかなホワイトフローラルの香りを表現する素材へと印象が変わります。糞便臭・腐敗臭・硫黄化合物の仲間も、純度100%では不快でも、濃度を抑えれば香りを構成する重要なパーツに変わります。だからこそ、絶対的な「無臭」を目指すより、悪臭との付き合い方を変える方が現実的なのです。
ところが興味深いことに、私たちが心地よいと感じる自然な香りのなかにも、もともとごくわずかに悪臭の成分が含まれています。たとえば、日本人になじみ深い緑茶の香りは、その大部分が良い香りの成分でできていますが、残りの一部は単独で嗅げば不快に感じる悪臭成分で構成されているとされています。単独では悪臭でも、少量加わることで、かえって香りに深みが生まれるのです。
悪臭と良い香りの境目は絶対的なものではなく、「濃度」と「組み合わせ」によって移り変わります。そして悪臭の種類ごとに、相性よく働く香りの方向性があるとされています。白茶、金木犀、森林、ジャスミン、せっけんといった香りが、その代表例です。この考え方こそ、次にご紹介するハーモセント技術の出発点になっています。
「マスキング」とは次元が違う ― ハーモセントという発想
悪臭対策として広く使われてきたのが「マスキング」という考え方です。これは、悪臭よりも強い香りを上からかぶせて、臭いを目立たなくする方法です。
ただ、マスキングには弱点があります。たとえば悪臭をチョコレートの香りで覆おうとすると、そのチョコレートの香り自体が強すぎて気持ち悪くなったり、周囲に届いて別の迷惑になったりすることがあります。香りが消えれば元の悪臭が戻ってくるため、効果が長続きしにくく、ディフューザーなどを使い続ける運用コストもかかります。
これに対して、悪臭を「香りを構成する一つの成分」としてとらえ、あらかじめ空けておいたスペースにその悪臭を取り込んで、全体として自然な香りに調和させる。この発想から生まれたのが、花王が独自に開発した感覚消臭技術「ハーモセント」です。
ハーモセントは「強い香りで覆い隠す」のではなく、「悪臭そのものを香りの一部として活かす」点が決定的に異なります。香りを無理に強くする必要がないため、より自然な仕上がりになります。複数の香りを組み合わせると単独で嗅ぐより弱く感じる、という人の知覚の性質を応用した、いわば脳の働きに沿った解決法です。
マスキングとハーモセントの違いを整理すると、次のとおりです。
| 観点 | マスキング | ハーモセント技術 |
|---|---|---|
| 考え方 | 強い香りで悪臭を覆い隠す | 悪臭を香りの一成分として取り込み、自然な香りに調和させる |
| 香りの強さ | 悪臭より強くする必要がある | 強くする必要がない |
| 仕上がり | 香り自体が不快になることがある | より自然な香りになりやすい |
| 持続性 | 香りが消えると悪臭が戻りやすい | 悪臭の発生期間に合わせた設計が可能 |
この発想は、調香の経験のなかから生まれたと言われています。香りをつくる過程で、「ジャスミンの香りのなかに、悪臭であるインドールが自然な形で収まって、魅力的な香りを構成している」という事実に気づく。そこから「悪臭の成分を抜いた香りをつくり、そこに悪臭を取り込めば、よい香りになるのではないか」という逆転の発想にたどり着いたのです。植物や果物には、濃く嗅げば悪臭と感じる成分が含まれていることがあり、共通する成分どうしであれば、果物と花の香りを組み合わせることで、より持続性の高い香りを生み出すこともできます。
ハーモセント技術では、豊富な香料素材のなかから、対象となる悪臭の種類に合わせて香りを個別に設計できます。この「悪臭に合わせて設計する」という考え方が、次の章につながります。
悪臭は「距離・時間・場所」で変わる ― だから設計する
悪臭対策で見落とされがちなのが、「同じ悪臭でも、感じ方は状況によって変わる」という点です。
臭いは、発生源からの距離、揮発のしやすさ、そして時間の経過によって、感じられ方が変化します。臭いには近い距離で感じやすいもの、中くらいの距離まで届くもの、遠くまで飛ぶものがあり、たとえば現場で作業する人が強く感じる臭いと、離れた場所にいる近隣の方に届く臭いは、性質が異なります。「誰の悪臭を解決したいのか」によって、目指すべき香りのつくり方も変わってくるのです。だからこそ、対策の第一歩は「誰の、どのシーンの悪臭を解決したいのか」を見極めることにあります。
香りには、嗅いだ瞬間に立ちのぼる香り(トップノート)、少し遅れて広がる香り(ミドルノート)、長く残る香り(ベースノート)があり、香料素材の揮発性によって、香ってくるタイミングが分かれます。揮発の速い素材は早く香り、ゆっくり揮発する素材は後から長く香ります。悪臭にも「立つタイミング」があるため、その瞬間に香りが寄り添うよう、素材の揮発性を計算して配置できます。
「いつ・どこで・誰にとって」気になる臭いなのかに合わせて、香りを設計する。これがハーモセント技術の最大の強みであり、次にご紹介する3つの事例にも一貫して表れています。
練り込みで解く、3つの実例
ここからは、実際にハーモセント技術を活用した3つの現場をご紹介します。いずれも、香料を素材に「練り込む」ことで悪臭課題を解決した、あるいは解決へ向かっているケースです。なお、各事例の企業名は伏せて掲載しています。
事例① オートケミカル(鉄粉除去剤)の悪臭
あるオートケミカルメーカーでは、ホイール用鉄粉除去剤の刺激臭が、製品そのものの課題となっていました。
課題:覆い隠すだけでは抑えきれない、鉄粉除去剤の刺激臭
鉄粉除去剤には還元剤としてチオグリコール酸アンモニウムが含まれ、硫黄系のにおい(卵が腐ったようなにおい)とアンモニア系のにおいが混ざった、独特の刺激臭のもとになっています。オートケミカル製品は車内や施工現場といった閉じた空間で使われることが多く、においの印象が使用体験に直結します。マスキングで覆い隠すだけでは、後から立ちのぼるにおいまでは抑えきれませんでした。
解決策:においが立つシーンに合わせた、香りの設計
そこで活きたのが、前章でお伝えした「シーンに合わせた設計」です。この製品では、容器を開けた瞬間と、屋外で洗浄しているときに、においが強く立ちます。最初の試作ではカシスの香りを選びましたが、フレッシュなグリーンノートは出るものの、遅れて立つ悪臭との間に距離が残りました。そこでフルーツの果肉感を加え、揮発の早いフルーツ感をグリーンノートの前後に配することで、においが立つタイミングのギャップを埋めています。こうして仕上げた香りは、単なる使い心地の改善にとどまらず、作業者の満足度向上や近隣への苦情低減、「臭いの少ないオートケミカル」としての差別化にもつながります。
事例② ジム用ゴムマットの悪臭
あるフィットネス器具メーカーでは、自社で販売するジム用ゴムマットのにおいが課題でした。

課題:素材は変えずに抑えたい、再生ゴムのにおい
マットの土台に使われる再生ゴムチップは、防振性や強度に優れる一方で、独特のにおいがこもりやすい素材です。とくに面積の限られたホームジムではにおいが気になりやすく、返品理由の一つにもなっていました。かといって素材そのものを別の材料に変えれば、せっかくの品質や使い勝手まで変わってしまいかねません。
解決策:物性を損なわず、においを香りへ練り込む
そこで、素材は変えずに「においを抑える」方向で、ハーモセント技術が採用されました。決め手になったのは、ゴムの物性に影響しないことです。ハーモセントの香料は油性でゴムになじみやすく、強度や耐久性を損なわずに素材へ練り込めます。製造は海外の工場が担っており、岡畑興産が現地に足を運び、品質への懸念を一つずつ解消しながら導入を進めました。さらに、ゴムのにおいは生産直後がもっとも強く、時間とともに落ち着いていきます。そこで、もっとも強い時期と落ち着いた頃の両方を見据えて香りを選び直し、現地工場での本格生産に至っています。
事例③ 樹脂リサイクルの悪臭(クローズドリサイクル)
3つ目は、屋外で使われる樹脂部材のレンタル事業者の事例です。使用済みの樹脂部材を回収し、別の屋外製品へと再生する「クローズドリサイクル」に取り組むなかで、ある壁にぶつかっていました。

課題:三者がそれぞれに抱える、再生材のにおい
樹脂のリサイクル自体は、回収・破砕・再ペレット化・再成形という流れで、技術的には実現できる時代です。それでも多くの現場が同じ課題で足踏みします。それが「におい」です。再生樹脂は再成形の工程で独特のにおいが出やすく、関係者がそれぞれの立場で、同じにおい問題を抱えていました。
| 立場 | 抱える臭いの悩み | だから踏み出せない |
|---|---|---|
| 消費財メーカー | 再生原料由来の臭いが気になる | 再生材の採用をためらう |
| 成形メーカー | 再成形時の作業環境の臭い | 再生材の受け入れに難色 |
| リサイクラー | そもそも臭い対策の手立てがない | 解決策を提示できない |
「できるのに、やらない」その理由が、においだったのです。
解決策:再ペレット化の工程で設計し、循環を回す
そこで、ハーモセント技術の香料を再ペレット化の工程で練り込むことで、においを理由に敬遠されてきた再生材を、成形メーカーに受け入れてもらえるようになりました。現在は実証に成功し、本番生産に向けて準備を進めている段階です。においがネックでためらわれていた再生材の活用が進めば、サーキュラーエコノミーにおける「最後の壁」を越える一歩になります。
ハーモセントを現場で活かす、岡畑興産の役割

ハーモセントは、花王が独自に開発した感覚消臭技術です。優れた技術であっても、それを実際の現場の悪臭課題に落とし込むには、製品特性や生産工程まで踏まえた橋渡しが欠かせません。その役割を担うのが、化学品の専門商社である私たち岡畑興産です。
私たちがご提供できる価値は、次のような点にあります。
- 1悪臭の見極めから香料選定までの橋渡し ── まず「何が悪臭の原因なのか」を見極め、対象に合った香りの方向性をご提案します。
- 2複雑な化学品の輸出入サポート ── 国によって使える香料素材は異なります。法律上、他国へ持ち込めない化学物質もあるため、各国の基準に合わせて組成にも配慮した香料設計や、化学品ならではの煩雑な輸出入手続きをサポートします。
- 3海外工場への現地対応 ── 現地法人のスタッフが工場へ直接納品し、現場での混合方法まで指導します。生産工程以外で、工場側に負担をかけません。
- 4含有量の最適化 ── 香料の添加量はわずかな差が仕上がりを左右します。これまでの実績にもとづくノウハウで、最適な配合をご提案します。
- 5サンプル提供・試作対応 ── 導入前に小ロットで効果をご確認いただけます。
- 6サプライチェーン全体の調整 ── 複数の関係者をつなぎ、悪臭対策を「実際に回る仕組み」にまで仕上げます。
「良い技術がある」だけでは、現場の課題は解決しません。技術を、それぞれの現場で本当に使える形に変えていく。そこに、私たち岡畑興産の存在意義があると考えています。
まとめ:悪臭は「設計」する時代へ
悪臭対策は、強い香りで「ごまかす」時代から、悪臭の種類・距離・時間に合わせて香りを「設計する」時代へと進んでいます。本記事でご紹介した3つの事例を振り返ってみましょう。
| 事例 | 悪臭の原因 | 悪臭が立つ場面・タイミング | 得られる価値 |
|---|---|---|---|
| オートケミカル(鉄粉除去剤) | チオグリコール酸アンモニウム(硫黄+アンモニア臭) | 開封時/洗浄時 | 作業者満足・苦情低減・差別化 |
| ジム用ゴムマット | 再生ゴムチップの臭い | 生産直後/数ヶ月後 | 返品低減・物性維持・付加価値 |
| 樹脂リサイクル | 再生樹脂の再成形時の臭い | 再ペレット化の工程 | サーキュラー実現・環境訴求 |
業界も発生源もまったく異なる3つの現場で、いずれも悪臭が立つシーンや時間の経過に合わせて香りを設計してきました。このことは、ハーモセント技術が幅広い悪臭課題に応用できる可能性を示しているといえます。
悪臭対策の第一歩は、「何が悪臭の原因で、どのシーンを解決したいのか」を見極めることです。私たち岡畑興産は、その見極めから、現場に合った香りの設計までを一貫してサポートします。
まずは、お気軽にご相談ください
悪臭の種類や状況に合わせて、最適な対策をご提案します。「何の臭いか分からない」という段階でも構いません。岡畑興産の専門スタッフが、課題の整理からお手伝いします。
●参考
- 花王株式会社 ニュースルーム(ハーモセント技術に関する公表情報)




